前回は歯周病について坪井新一先生にお話を伺いました。
今回は歯周病と全身疾患との関係について、詳しくお話を伺います。
UCLAで驚きの事実
歯周病と全身疾患についての活動のきっかけは?
1990年代、毎年私どものスタディーグループで、アメリカカリフォルニア州にあるUCLA(カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校)に研修に行っていました。歯周病とインプラントの研修を受けている中で、UCLAの教授から「歯周病と糖尿病との関係」について報告を受け、その事実を知って大変驚きました。
後に日本の糖尿病を専門にしている医師たちにも、このことが知られるようになりました。
兵庫県歯科医師会常務理事(後に副会長)として、そのことを広められたのですか?
坪井先生:兵庫県歯科医師会から、兵庫県の「糖尿病対策推進協議会」に、委員の一人として参加していました。
ご存じのとおり近年、糖尿病は国民病の代表と言えるくらい広まっており、かつ恐れられています。そこで歯科との関係も取り込んで報告することが重要であることから、私どもに声がかかりました。
糖尿病と併発症、糖尿病専門医や眼科の先生方と一緒に県下を回りました。各地で市民講座を開いて、その講義の中で歯周病と糖尿病については私が担当して啓発活動をしました。
糖尿病以外に関連のある病気は?
それはたくさんあります。
1990年代当時に比べて、多くのエビデンスが出ています。まず糖尿病は、歯周病と密接な相関関係があります。
糖尿病以外で代表的なのは心筋梗塞や脳梗塞。重度の歯周病に罹っている妊婦の場合、早産や低体重症のリスクがあります。
そのほかに癌との関係、認知症との関係。つまり口の中の病気が様々な病気と関連していることが、新聞等をにぎわしています。
高齢者の誤嚥性肺炎は?
これは大事で忘れてはいけませんね。
毎年誤嚥性肺炎で多くの高齢者がお亡くなりになっています。そのほとんどが、口の中の菌が食道ではなく気管支を通って肺に入り、肺炎を発症して、ひどい場合は命を落とすことになります。
誤嚥性肺炎とは?
口は、普段は空気を吸っていて、気管支が開いていています。そして物を飲んだり食べたりすると、「ペコン」と気管支に蓋をして食道につながり、飲み物や食べ物が食道を通るというのが正常です。
ところが高齢になると筋力が落ちて、「ペコン」という反応が悪くなります。
すると唾を飲み込んでも蓋がされず、気管支を通って肺に入ってしまう。
自覚症状がない人も多く、これによって肺炎球菌や歯周病菌が肺に入って起こる肺炎が、誤嚥性肺炎です。
なので歯周病が原因で誤嚥するのではなく、加齢が原因で誤嚥したときに歯周病菌が肺に入ると誤嚥性肺炎を起こしやすいということです。
歯周病と糖尿病の関係について認知度は?
歯科医師はほとんど知っています。医師については、どの程度認知されているのか正直わかりません。
ただ糖尿病の専門医は認知しています。スタンダードな治療法の中で、歯周病が糖尿病から派生する病気として、はっきりとうたわれています。
歯周病と糖尿病に、相互関係は?
歯周病の進行を止めると糖尿病の進行が止まる、逆に糖尿病の進行を止めると歯周病の進行が止まるということがあります。つまり相互作用があります。
歯周病を治療すれば、糖尿病が治りますか?
はい、歯周病を治療するとA1c(エーワンシー)の値が下がります。
(A1c:役に立たない赤血球の割合。5%以下だと正常)
糖尿病は完治しませんが、検査数値が良くなるということは、糖尿病が良化しているということです。
心臓病との関係
歯周病は心臓病にも関係?
歯周病と心臓病の関係は、まだまだ一般の方々に浸透していません。歯周病になって口の中で慢性の炎症を起こしていると、それに反応する物質が出ます。
この物質をサイトカインと言います。
このサイトカインや歯周病の原因菌が血流に乗って、血栓が作られるのを助けます。血栓とは血のかたまりですね。
これが心臓に飛べば心筋梗塞、脳に飛べば脳梗塞になります。
腎臓病や早産も、サイトカインや歯周病の原因菌が血流に乗って悪い影響を及ぼします。
血流に乗るのですから、まさに全身疾患の元になっているわけです。
歯周病は体中にばい菌をばらまいている?
歯周病の原因菌は特殊な菌です。普段から誰の口の中にもあるものですが、歯周病が進行すると数が増えていきます。
この菌は歯茎の中で増える、酸素が要らないという特徴があって、これを「嫌気(ケンキ)」と言います。
こういった菌が毒素を出します。
ズバリ聞きます
歯周病の治療が全身疾患の予防になる?
なります!
歯周病の治療が口臭予防になる?
磨き残しのプラーク(歯垢)に含まれている菌が口臭の原因ですし、歯周病に罹っいる人なら歯周病菌が発する独特のガスも強い口臭の原因です。また虫歯に罹っいる人からも独特の臭いが出ます。
口臭は口の中がほとんどの原因ですから、歯周病に限らず口の中が健康でないと口臭につながります。
歯科医療の重要性
坪井先生から「歯科医療の重要性」について
長寿社会になって長く生きるということなると、その中で歯を保たしていくということが私たち歯科医師の大事な役割です。そのためには、みなさんによるお口のセルフケアも大事で、歯科医師と一緒に努力していかないと、一生自分の歯で噛むということができません。
一生自分の歯で噛めるというのは、21世紀に入って大変大事なことになってきています。
前編で説明しましたとおり、歯を失うほとんどの原因が歯周病と虫歯です。
虫歯は幸いなことに自覚症状が出る。
痛いとかしみるとか。なので「歯医者に行こう」となります。
ところが歯周病は「静かな病気」でなかなか自覚症状が出ない。
長い年月をかけて歯の土台になっている骨を溶かしていく怖い病気です。
「歯茎から出血する」とか「歯がグラグラする」といった自覚症状が出てから「歯医者に行こう」では遅いんですね。
大事なのは予防歯学
みなさんには「予防歯学」という考え方を持っていただきたいのです。せめて半年に1回、いや1年に1回でいいから、歯の検診に歯科医院を訪れていただくことが大事です。
その際に私たち歯科医師が歯をチェックしたり、歯石を取ったりして悪くならないよう予防をします。
そうすることが糖尿病をはじめとする全身疾患の予防になります。
悪くなくても歓迎します
患者としては、自覚症状が無いと歯科医院の敷居が高いのですが...
いえいえ、そんなことはありません。
予防が大事と考えている歯科医師はたくさんいます。
ホームページでうたっている先生もいます。そういう歯科医師になら歓迎されるでしょうね。
歯周病になる前に、歯科医院へ行ってください。
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